花を咲かせて
ふるさとを山に還したい
秩父の山深い村に暮らす小林ムツさんは、平成に入った頃から、夫の公一さんとともに、丹精込めた段々畑をひとつまたひとつと閉じそこに花を植えてきました。
その数、1万本以上。
ムツさんは言います。
「長い間お世話になった畑が荒れ果てていくのは申し訳ない。せめて花を咲かせて山に還したい…」。
それはまるでふるさとに花を手向け、終わり支度をしているかのようでした。二人が心がけていたのは、いつか誰も世話をする人がいなくなっても咲く、丈夫な花を育てること。人も花も、老いて枯れる時が来ても、いのちが次に引き継がれるように…。
暮らす人が年々いなくなる小さな村は、春、色とりどりの花に包まれるようになりました。福寿草に始まって、レンギョウ、ハナモモ、ヤマツツジ。潤いの雨を受けてアジサイが咲き、秋は、苗木の時から夫婦で育てたモミジが彩ります。「いつか人が山に戻ってきたとき、花が咲いていたらどんなにうれしかろう。」柔らかな笑顔でそう言っていたムツさん。でもやがて、つらい出来事が―。
ムツさんの歩いた道を、美しい山里の四季とともにたどります。
NHKの人気ドキュメンタリーシリーズ
「秩父山中 花のあとさき」待望の映画化。
監督・撮影は、ムツさんに惹かれて18年にわたり取材を続けたNHKカメラマン・百崎満晴。プロデューサーは「新日本風土記」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した伊藤純。語りは「NHKスペシャル」などのナレーションで放送文化基金賞を受賞した長谷川勝彦。平成14年から放送されて大反響を呼んだ7本のドキュメンタリーシリーズを集大成し、映画のために書きおろされたオリジナル楽曲と未公開シーンを加えてお届けします。