INTRODUCTION
平成『ガメラ』シリーズ(1995~1999)・『デスノート』(2006)の金子修介監督と歴史美術研究家の宮下玄覇共同監督が放つ“新”戦国時代劇『信虎』。黒澤映画を彷彿【ほうふつ】とさせる本格時代劇でありながら、随所に〝本物〟へのこだわりが詰まった、意欲的・野心的な作品に仕上がった。これまでにない新感覚のテイストを併せ持ち、作り物である時代劇を見ているというより、あたかも時代の一場面を目撃していると錯覚させるかのようなリアルさが、本作最大の特色といえるだろう。
戦国の名将 武田信玄の父・信虎は信玄によって追放され、駿河を経て京に移り、足利将軍家の奉公衆となる。追放より30年の時が流れた元亀4年(1573)、信玄が危篤に陥ったことを知った信虎は、再び武田家にて復権するため甲斐への帰国を試みるも、信濃において勝頼とその寵臣【ちょうしん】に阻まれる。信虎は、織田信長との決戦にはやる勝頼の暴走を止められるのか。齢【よわい】80の「虎」が、武田家存続のため最後の知略を巡らせる――。
主演の寺田 農は、ジブリ映画『天空の城ラピュタ』(1986)のムスカ大佐の声優として知られ、また数々の大河ドラマなどの時代劇作品に出演し、相米慎二監督『ラブホテル』(1985)以来36年ぶりの主演作。寺田の演技は、まるで信虎が乗り移ったかのように迫力に満ちている。谷村美月がヒロインのお直を美しく演じるほか、榎木孝明、永島敏行、渡辺裕之らベテラン俳優が重要人物として出演している。また矢野聖人、荒井敦史、石垣佑磨の若手俳優も戦国乱世の激動の時代を生き抜く姿を演じ、豪華な布陣となっている。なお、本作は『影武者』の織田信長役でデビューした隆 大介の遺作であり、彼に捧げられている。
本作の音楽を担当したのは、『影武者』(1980)など後期 黒澤明作品や今村 昌平の一連の作品に携わった池辺 晋一郎。撮影は『恋人たち』(2015)の上野彰吾、照明の赤淳 一、衣裳の宮本まさ江、特殊メイクスーパーバイザーの江川悦子、美術・装飾の籠尾和人、VFXのオダイッセイら、日本映画の最高峰の叡智を結集した。武田氏研究の第一人者・平山 優も武田家考証として参加している。共同監督の宮下は、戦国時代を忠実に再現するために髷【まげ】・衣裳・甲冑・旗・馬・所作・音などディティールに徹底的にこだわった。
『影武者』(1980)より40年余、『天と地と』(1990)より30年余。2021年は武田信玄生誕500年、2022年は武田信玄450回忌の記念イヤーである。
STORY
武田信虎入道(寺田 農)は息子・信玄(永島敏行)に甲斐国を追放された後、駿河を経て京で足利将軍に仕えていた。元亀4年(1573)、すでに80歳になっていた信虎は、信玄の上洛を心待ちにしていたが、武田軍が国に兵を引き、信玄が危篤に陥っていることを知る。武田家での復権の好機と考えた信虎は、家老の土屋伝助(隆 大介)と清水式部丞(伊藤洋三郎)、末娘のお直(谷村美月)、側近の黒川新助(矢野聖人)、海賊衆、透破(忍者)、愛猿・勿来(なこそ)などを伴い、祖国・甲斐への帰国を目指す。途中、織田方に行く手を阻まれるも、やっとの思いで信濃高遠城にたどり着いた信虎は、六男・武田逍遥軒(永島敏行・二役)に甲斐入国を拒まれる。信玄が他界し、勝頼が当主の座についたことを聞かされた信虎は、勝頼(荒井敦史)との面会を切望する。
そして3カ月後、ついに勝頼が高遠城に姿を現す。勝頼をはじめ、信虎の子・逍遥軒と一条信龍(杉浦太陽)、勝頼の取次役・跡部勝資(安藤一夫)と長坂釣閑斎(堀内正美)、信玄が育てた宿老たち、山県昌景(葛山信吾)・馬場信春(永倉大輔)・内藤昌秀(井田國彦)・春日弾正(川野太郎)が一堂に会することになる。信虎は居並ぶ宿老たちに、自分が国主に返り咲くことが武田家を存続させる道であることを説くが、織田との決戦にはやる勝頼と、跡部・長坂ら寵臣に却下される。
自らの無力さを思い知らされた信虎は、かつて信直(石垣佑磨)と名乗っていた頃に、身延山久遠寺の日伝上人(螢 雪次朗)から言われたことを思い出す。そして武田家を存続させることが自分の使命であると悟り、そのためにあらゆる手を尽くすのであった。上野(こうずけ)で武田攻めの最中だった上杉謙信(榎木孝明)が矛先を変えたのは、信虎からの書状に目を通したからであった。
お家存続のために最後の力を振り絞った信虎だったが、ついに寿命が尽き、娘のお直とお弌(左伴彩佳 AKB48)や旧臣・孕石源右衛門尉 (剛たつひと)たちに看取られて息を引き取る。
その後、勝頼の失政が続き、天正10年(1582)、織田信長(渡辺裕之)による武田攻めによって一門の木曽義昌ほか穴山信君(橋本一郎)が謀叛を起こし、勝頼は討死、妻の北の方(西川可奈子)も殉じ、武田家は滅亡する。以前、武田家臣・安左衛門尉(嘉門タツオ)が受けた神託が現実のものとなった。
信虎がこの世を去ってから百数十年後の元禄14年(1701)、甲斐武田家の一族で、五代将軍徳川綱吉の側用人・柳澤保明(後の吉保、柏原収史)は、四男坊・横手伊織(鳥越壮真)に、祖父と関係があった信虎の晩年の活躍を語る。この物語は、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか――。
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