サッカーは片足を失くした少年の希望になる
サヒム・オマール・カリファ監督による19分間の短編映画『バグダッド・メッシ』は、2015年アカデミー賞短編実写部門の最終候補に選出され、世界中で高い評価を獲得した。そして9年の歳月を経て、その物語をさらに壮大なスケールへと昇華させた長編映画が本作である。第97回アカデミー賞国際長編映画賞のイラク代表にも選出され、各国の映画祭で最優秀賞を席巻。主演のアフマド・モハメド・アブドラも、第10回ドホーク国際映画祭にて最優秀男優賞を受賞するなど、社会派ドラマとして圧倒的な完成度を誇る。本作に比類なき説得力を与えているのは、主演アフマド自身の人生だ。彼は5歳の時、テロによって片脚と最愛の父を失った過去を持つ。そんな彼が、ハムディと同じく、史上最高と称されるサッカー選手リオネル・メッシへの憧れを胸に、不屈の精神で立ち上がる姿は、単なる演技を超えた痛切なリアリズムを体現している。しかし本作は、単なる感動のサクセスストーリーでは終わらない。戦争、宗派対立、貧困、差別---巨大な暴力は、何度でも人々の尊厳を踏みにじる。それでもなお、生きることを諦めず、ボールを蹴り続ける少年と家族の姿は、極限状態のなかで人間が希望を失わずに生き抜くことの意味を、静かに、そして力強く問いかける作品だ。
STORY
2009年、イラク戦争下のバグダッド。メッシに憧れる11歳の少年ハムディは、仲間たちと泥だらけのサッカーボールを日々追いかけていた。しかし、一瞬の爆撃に巻き込まれ、目覚めたときには、片足を失っていた。
夢も自由も奪われ、さらにアメリカの警備会社で通訳をする父を憎む者に家を焼かれてしまった一家は辺境の村へ逃れる。片足を理由に地元のサッカーチームから拒絶され、何もかもが変わってしまった世界で居場所を見失うハムディだったが、閉ざされた少年の心を両親の愛が動かし、もう一度夢を見るために一本の足でも立ち上がろうとする。しかし、戦争という無慈悲な現実はなおも容赦なく彼らに襲いかかる---。

