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『天国にちがいない』【4/9~】

2021/02/14

現代のチャップリンが贈るパレスチナへのラブレター

中東、パレスチナ。現在、世界の中でもこれほど定義の難しい地域名は他にないだろう。もともとは現在のイスラエルとパレスチナ自治区、一部地域を除くヨルダン、そしてレバノンとシリアの一部を指していたが、1948年ユダヤ人によるイスラエル建国宣言によって、先住のアラブ人は「国外」に逃げて難民となるか、その地に留まるかの選択を迫られた。後者を選んだものは、自動的に「イスラエル人」にさせられてしまった。この「パレスチナ系イスラエル人」であり、イエスの故郷ナザレに生まれたのが本作の監督エリア・スレイマンである。
2002年カンヌ国際映画祭審査員賞、国際批評家連盟賞を受賞した『D.I.』では、自らの出生と同様のナザレに住むイスラエル国籍のパレスチナ人を演じ、熱狂的なファンを獲得。中東紛争やパレスチナ問題をテーマにしながらも、アイロニーに満ちたユーモアで世界に笑いの渦を巻き起こした奇才だ。
本作では、カンヌ国際映画祭パルムドールの有力候補と目されつつ、特別賞と国際映画批評家連盟賞をW受賞。第92回アカデミー賞国際長編映画賞ではパレスチナ代表に選出されるなど、世界中の映画祭で軒並み高評価を受けた。
その作風……いや芸風はチャップリンやバスター・キートン、あるいはジャック・タチなど偉大な“喜劇王”たちと比較されるほど。
無言で世界を見つめる道化に扮するスレイマンだが、彼もまた決して傍観者では居られない。平凡なひとりの人間として、世界の混沌に巻き込まれていく。
本作では主人公の友人として、あの人気俳優、ガエル・ガルシア・ベルナルが本人役で出演。そしてスレイマンが演じる主人公のキャラクターは、より彼の自画像に近づいた。なんと新作の企画を持って彷徨う映画監督の役!

果たして我々の“故郷”と呼べる場所とは何なのか---?
ユーモアとイマジネーションで贈る珠玉のコメディー

映画監督であるエリア・スレイマン(以下ES)は、新作映画の企画を売り込むため、そして新たなる故郷を探すため、ナザレからパリ、ニューヨークへと旅をする。
パリでは美しい景観に見惚れる一方、街を走る戦車、炊き出しに並ぶ大勢の人、救護されるホームレスを、ニューヨークでは映画学校の講演会で対談相手の教師から「あなたは真の流浪人ですか?」と唐突に質問をされ呆気に取られながら、街で銃を持つ市民、上空を旋回するヘリコプター、セントラルパークで警官に追われ逃げ回る裸の天使を目の当たりにする。さらに、肝心の映画企画は友人ガエル・ガルシア・ベルナルの協力を得るも「パレスチナ色が弱い」とプロデューサーからあっけなく断られてしまう。
パリからニューヨーク、いかに遠くへ行こうとも、平和と秩序があるとされる街にいようとも、何かがいつも彼に故郷を思い起こさせる。新たなる故郷での新生活への期待は間違いの喜劇となる。
アイデンティティ、国籍、所属に巡るコミカルな叙事詩。
まるで、どこに行っても同じ――。この世界はパレスチナの縮図なのか?
そこでESはある根本的な疑問を投げかける。「我々の“故郷”と呼べる場所とはいったい何なのか―?」

ナザレ、パリ、ニューヨークと、ひとりの男の極私的な旅路を、その地独特の街並みや慣習を美しく軽やかに演出。気品あふれる映像美に酔いしれる。あくまでエレガントなタッチを崩さず、「パレスチナ問題」をユーモラスに演出。だがそこには、監督の強烈な政治的メッセージが込められている。
長編デビュー作『消えゆくものたちの年代記』、『D.I.』を通して、主演しながらひと言も喋らなかったESが、この映画ではふた言だけ口を開く。「ナザレ」「パレスチナ人だ」!
英語、フランス語、アラブ語、スペイン語、ヘブライ語……あらゆる言語が飛び交う旅を通して、この世界に生きる全ての人に根源的な疑問を投げかける意欲作であり、パレスチナへの愛と苦悩、そして世界の混迷と人間の愛おしさを軽やかな映像美で描く名匠エリア・スレイマン10年ぶりの新たなる傑作である。

 

2019年/フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ合作/102分
監督:エリア・スレイマン
原題:It Must Be Heaven
出演:エリア・スレイマン/タリク・コプティ/アリ・スリマン/ガエル・ガルシア・ベルナル/他
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス

上映場所 ソレイユ・2(地下)
上映期間 4/9(金)~4/22(木)
4/9(金)~4/15(木) ①13:35  ②19:35
4/16(金)~4/22(木) ①9:40  ②18:05

 

 

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