『マイ・フーリッシュ・ハート』【1/17~】

ジャズ界のレジェンドから悲しきジャンキーへと堕ちた
チェット・ベイカーの知られざる最期の数日間を映画化

1950年代のジャズ・シーンに彗星のごとく現れ、唯一無二の魅惑を湛えたトランペットの清冽な音色と中性的な歌声によって、巨人マイルス・デイヴィスを凌ぐほどの人気を獲得したチェット・ベイカー。端正なルックスゆえに“ジャズ界のジェームス・ディーン”と呼ばれたこの天才ミュージシャンは、ドラッグ依存によって心身をひどく蝕まれ、悲劇的な人生を送ったことでも知られている。1960年代にキャリア終焉の危機に陥ったチェットが、どん底から奇跡的なカムバックを遂げていく様を描いたイーサン・ホーク主演作『ブルーに生まれついて』(2015)が、多くの観客の胸を打ったことも記憶に新しい。

このようにウエストコースト・ジャズのスーパースターから、悲しき孤独なジャンキーへと堕ちていったチェットは、その極端に起伏の激しい人生そのものまで伝説化されてきたが、彼が58歳の時にオランダ・アムステルダムのホテルから転落死した際の真相は、未だ謎のベールに覆われている。オランダの新鋭、ロルフ・ヴァン・アイク監督が撮り上げた『マイ・フーリッシュ・ハート』は、チェットの“最期の数日間”に焦点を絞った野心的な長編デビュー作。『ブルーに生まれついて』の後日談としても興味の尽きない異色の伝記ドラマである。

1988年5月13日金曜日、午前3時。アムステルダムに滞在中のチェット・ベイカーが、宿泊先のホテル2階の窓から落下して死亡した。現場に駆けつけた地元の刑事ルーカスは、前夜に出演予定のライブ会場に姿を見せなかったチェットの身に何が起こったのかを調べ始める。マネージャーのピーター、医師のフィールグッド、ルームメイトのサイモン、そしてチェットの最愛の女性サラ。彼らから話を聞いたルーカスは、チェットのずたずたに傷ついた心の闇に触れ、プライベートに問題を抱えた自らの苦境を彼に重ね合わせるようにして捜査にのめり込んでいく。やがてチェットがドラッグディーラーに借金返済を迫られていた事実も明らかになるなか、ルーカスがたどり着いた“真実”とは……。

孤高の天才は、なぜ異国のホテルで息絶えたのか?
数々の名曲をフィーチャーしたノワール調の映像世界

ジャズの歴史に輝かしい功績を残したチェット・ベイカーは、なぜ異国オランダの道ばたで無残に息絶えたのか。場末のホテルの窓から転落死した事実は明白だが、それが投身自殺だったのか、不慮の事故か、それとも何者かに突き落とされたのかは特定されていない。20代初めの頃、チェットの音楽に深い感銘を受けたというロルフ・ヴァン・アイク監督は、チェットに関する伝記本や記事を読みあさり、生前の彼を知る関係者たちへのインタビューを実施。リサーチに3年の歳月を費やし、本作の脚本を書き上げた。

チェットの死の真相を探る刑事ルーカスは架空のキャラクターだが、そのほか多くの登場人物は実在しており、チェットの知られざる最期の日々がきめ細やかに再現されている。また、幾多の事実をベースにしながらも独自のフィクションを織り交ぜた映像世界は、時間軸が奇妙に入り組み、妖しい色彩美、幻惑的な光と影のコントラストに彩られている。死に至る直前までやるせない孤独感に苛まれ、愛を求めてあてどなく彷徨していたチェットの心模様を象徴するかのようなフィルムノワール調のミステリー映画として完成した。

チェットを演じるのは、アイルランドの俳優兼ロック・ミュージシャンであるスティーヴ・ウォール。他者に愛情を素直に伝えることができず、どうしようもなく無力で傷つきやすい魂を内に秘めたチェットの生き様を体現するとともに、劇中では観る者の心を震わす歌声を披露している。演奏の吹替を担当したのは人気トランペッターのルード・ブレールス。タイトル曲「マイ・フーリッシュ・ハート」を始め、「マイ・ファニー・バレンタイン」などの名曲のライブやスタジオでの演奏シーンをふんだんにフィーチャーした本作は、本格的な音楽映画でもある。

 

2018年/オランダ/87分/PG12
監督:ロルフ・バン・アイク
原題:My Foolish Heart
出演:スティーブ・ウォール/ハイス・ナバー/レイモント・ティリ/ティボ・バンデンボーレ/他
配給:ブロードメディア・スタジオ

上映場所 ソレイユ・2(地下)
上映期間 1/17(金)~1/30(木)
1/17(金)~1/23(木) 時間未定
1/24(金)~1/30(木) 時間未定