オダギリジョー長編初監督作品
ひとりの船頭を通して見つめる、人間の根源。
オダギリジョーが満を持して長編映画の初監督に挑戦したのが『ある船頭の話』だ。脚本は10年前に書き留めたオリジナルストーリー。年号が「平成」から「令和」に変わる今、文明の波や時代の移り変わりに直面した山あいの村を舞台に、「本当に人間らしい生き方とは何か」を世に問う問題作が生まれた。
近代化で橋の建設が進む川辺の村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチは、村人たちが橋の完成を心待ちにする中、それでも黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんな折、トイチの前に謎めいた少女が現れ、トイチの人生は大きく変わり始める……。
時代に取り残される主人公の船頭・トイチを演じるのは新藤兼人監督作品『石内尋常高等小学校 花は散れども』以来、11年ぶりの主演となる名優、柄本明。謎めいたヒロイン役には川島鈴遥を抜擢。トイチを慕い、多くの時間を共に過ごす村人・源三役には若手実力派、村上虹郎。ほかにも日本映画界を代表する多彩な顔ぶれが競演。その豪華さ、意外な起用には驚くはずだ。
元々、監督業に興味を持っていたオダギリだが、この10年間はその想いを封印してきた。その心を動かすきっかけとなったのは『恋する惑星』(94)、『ブエノスアイレス』(97)の撮影監督として知られる巨匠クリストファー・ドイルとの出会いだった。ドイルの監督作『宵闇真珠』(18)に主演した際、「ジョーが監督するなら、俺がカメラをやる」とバックアップを約束したのだ。
俳優として海外でも精力的に活動してきたオダギリのもとには国際派スタッフが集結。撮影監督のドイルのほか、衣装デザインには黒澤明監督の『乱』(85)で米アカデミー賞®を受賞したワダエミ、そしてアルメニア出身の世界的ジャズ・ピアニスト、ティグラン・ハマシアンが映画音楽に初挑戦。監督オダギリジョーが一流の才能を集め、比類なき作家性を発揮し、圧倒的な映像美と音楽で紡いだ、極上の物語が完成した。
一艘の舟。全ては、
そこから始まる─。
明治後期から大正を思わせる時代、美しい緑豊かな山あいに流れる、とある河。船頭のトイチは、川辺の質素な小屋に一人で住み、村と町を繋ぐための河の渡しを生業にしていた。様々な事情を持つ人たちがトイチの舟に乗ってくる。日々、黙々と舟を漕ぎ、慎ましく静かな生活を送っていた。
こんな山奥の村にも、文明開化の波が押し寄せていた。川上では煉瓦造りの大きな橋が建設されている。村の人々は「橋さえできれば、村と町の行き来は容易になる」「生活しやすくなる」と完成を心待ちにしているが、トイチは内心、複雑な思いでその様子を見守っていた。
そんな折、トイチの舟に何かがぶつかる。流れて来たのは一人の少女だった。トイチは少しの間その子の様子を見てやることにするが、それと同じ頃、トイチは渡し舟の客から、奇妙な惨殺事件の噂を耳にする。少女はどこからやってきたのか? どんな過去を背負っているのか?
少女の存在はトイチの孤独を埋めてくれてはいるが、その一方でトイチの人生を大きく狂わせてゆくことになる……。