パリ郊外――、移民、貧困、学力低下。
フランスが直面する社会問題を背景に描く“学ぶこと”の大切さ
もし、フランス最難関のエリート高校の教師が、パリ郊外の教育困難校に送り込まれたら? 移民問題で揺れるフランスで今、大きな社会問題となっているのは移民の子供たちが直面する学力低下と教育の不平等だ。貧困層や移民の子供たちの教育問題を取り上げたフランス映画はこれまでにも多数製作されてきた。パリ郊外の団地で生まれ育ち、教育というセイフティーネットからこぼれ落ちた若者の荒廃を描く衝撃作『憎しみ』(95)から始まり、『パリ20区、僕たちのクラス』(08)や『ぼくたちのムッシュ・ラザール』(11)、『奇跡の教室 受け継ぐものたちへ』(16)、『オーケストラ・クラス』(17)。繰り返し問題提議されるほど根深い教育問題に新たな視点で取り組んだのが、本作『12か月の未来図』だ。本作で描かれるのは、主人公の国語教師フランソワと劣等感の塊だった生徒たちが教育の力で自信を取り戻し、新しい未来を自力でつかみ取ろうと模索するリアルな成長物語だ。
2年間の学校生活ですくい上げた子供たちの本音を脚本に。
演じるのは子供たち自身!
監督のオリヴィエ・アヤシュ=ヴィダルは、本作の取材のために中学校に2年間“登校”し、500名の生徒や40名の教師と学校生活を送った。子供たちと触れあう一方で問題を起こした生徒の処分を決定する学校評議会や職員会議などにも参加し、学校の表と裏を丹念に調べ上げて本作に注ぎ込んでいる。映画監督になる前はフォトジャーナリストとして世界を飛び回っていた経歴を持つだけに、現実を見つめる視線は冷静だ。本作では鍛えられた観察眼を駆使して取材時に知り合った子供たちの苦しみと未来への夢を脚本化し、彼らに自分自身を演じさせたという。演技初体験の子供たちがカメラを意識せずに演技に集中できたのは、2年間の準備期間と9ヶ月に及ぶ撮影期間のおかげである。 偉大な父への劣等感を抱きながら真の教育に目覚めるフランソワを演じるのは、フランスが誇る劇団「コメディ・フランセーズ」の正座員のドゥニ・ポダリデス。主に舞台で活躍するベテラン俳優兼演出家で、08年の映画『サガン 悲しみよこんにちは』などにも出演するフランスの名優だ。ブルジョア出身らしく感情は控えめで知的なフランソワを、生徒にいじられてしまう人間味あるキャラクターに味付けしたのはポダリデスの演技力あってこそだ。
フランスが誇る名門アンリ4世高校で国語を教えるベテラン教師のフランソワ・フーコー(ドゥニ・ポダリデス)。父は国民的作家で、妹は彫金作家として活躍する知的なブルジョア一家に育ち、家庭も職場もブルジョアばかりという特殊環境に疑問を感じることなく生きてきた。ある夜、フランソワは父の新刊サイン会でゲストに教育改革論を語る。パリとパリ郊外の学校における教育格差を解決するには、問題校へベテラン教師を派遣して新米教師を支援すればよい。偶然、彼のアイデアを耳にした美女がいたことから、フランソワの未来が大きく変わっていく。
アンヌと名乗る美女は国民教育省で教育困難校に取り組む専門家だった。フランソワの提案を気に入った彼女は、早速、彼に教育優先地域にあるバルバラ中学校への1年間の派遣を依頼した。燃えつきた廃車、草むらから現れる謎の人物、真っ昼間から団地の空き地にたむろする若者たち。荒廃した光景に怯えながら、フランソワは郊外の赴任先へと足を踏み入れる。