『四月の永い夢』【7/14~】

2018/04/25

亡き恋人から届いた手紙――
止まったままの私の「時」が動き出す

3年前に恋人を亡くした27歳の滝本初海。音楽教師を辞めたままの穏やかな日常は、亡くなった彼からの手紙をきっかけに動き出す。
元教え子との遭遇、染物工場で働く青年からの思いがけない告白。そして心の奥の小さな秘密。
――喪失感から緩やかに解放されていく初海の日々が紡がれる。

初海の心の光と影をその透明感あるたたずまいでみずみずしく演じるのは『かぐや姫の物語』の朝倉あき。初海に恋する朴訥で誠実な青年・志熊を体現するのは映画・TVで活躍する三浦貴大。脇を固める高橋由美子 志賀廣太郎 高橋惠子ら実力派俳優陣の心打つ演技、舞台でも活躍する川崎ゆり子。モデルで活躍する青柳文子の新鮮な存在感。
大橋トリオ等と活動するユニット・赤い靴の「書を持ち僕は旅に出る」が挿入歌として印象的に流れ初海の一歩をそっと後押しする。物語を彩るのは『おおかみこどもの雨と雪』の舞台となったともされる国立や富山県朝日町をロケ地とした日本の美しい風景。平成という時代が過ぎ去ろうとする今、本作は物質的豊かさをゴールとしない丁寧で誠実な日常が生みだす幸せと希望をどこか昭和的なノスタルジーと共に伝えてくれる。

文学のフィールドから登場した
ユニークな才能:監督中川龍太郎

これまで中川龍太郎監督が手掛けた作品のうち、『愛の小さな歴史』(15)、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(16)が2年連続で東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門出品。後者は、フランスの映画批評誌「カイエ・ドゥ・シネマ」からも高く評価され、小さな規模の公開にも関わらず話題を巻き起こした。そんな『走れ、絶望に追いつかれない速さで』に続いて、『四月の永い夢』は、“親友の死”という自身の実体験を踏まえながら、だが前作の鋭い感性とはまた異なる優しいまなざしで、主人公の心の旅を描き出していく。
原作本の映画化が多い昨今の中で、監督自ら執筆する脚本におけるセリフは本作の魅力のひとつ。語り過ぎず、さり気なく発せられる端正な言葉と、そこに込められた心情のリアリティ。観る者の心に響くそれらは、17歳で「詩集 雪に至る都」を出版した詩人、エッセイストにして、大学の文学部に籍を置きつつ独学の映画作りで才能を発揮してきた経歴を持つ、彼ならではのもの。同時に、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』で主演を務めた太賀のその後の活躍ぶりの礎となったように、キャストの魅力を最大限引き出すことでも定評がある。
平成2年生まれの若者としての視点に立ちながら、昭和の風景への憧れを抱き、文学というフィールドを背景に持つユニークな映画監督・中川龍太郎が、閉塞感ある今の社会に風を吹き込む。

 

2017年/日本/ 93分
監督:中川龍太郎
出演:朝倉あき/三浦貴大/川崎ゆり子/高橋由美子/青柳文子/ 他
配給: ギャガ・プラス

 

 

上映場所 ソレイユ・2(地下)
上映期間 7/14(土)~7/27(金)
 7/14(土)~7/20(金) ①10:00 ②16:45
 7/21(土)~7/27(金) ①14:55

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